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第二百三十七言「『志』の先に、終わりがない」(2009年4月13日号 )

'Death and Dying'(死と死に行くこと)

多くの人が触れず、また私自身も意識的に避けてきたテーマかもしれません。

 

先日、寄藤文平氏が書かれた『死にカタログ~The Catalog of Death~』(大和書房)を手にし、こんなにも明るく、あっさりと「死」について解説することもできるのだ、と小さな驚きを感じました。この本には、「ハチ公」「ごんぎつね」「フランダースの犬」「マッチ売りの少女」「大きな古時計」のように、「死」について触れた作品がいくつか紹介されています。どの作品も「死と死に行く時」の描写を通し、生きる上での重要な意味を教えている作品です。

 

この本の後半に差し掛かった時、ニュージャージーに住む姉から、「心をうつサイトがある」との連絡が入りました。偶然にもそのサイト(http://www.hokariminoru.org/

には、故 保苅 実(ほかり みのる)氏が32歳という若さで亡くなられる直前まで愛する人たちに向けて送られたメッセージが記されていました。そして、そのサイトは、現在でも実氏のお姉さまである由紀さんが管理されていらっしゃるものです。

 

保苅 実氏は、一橋大学で経済学修士取得された後、 ニューサウスウェールズ大学とオーストラリア国立大学で歴史学の研究を続けPh.Dを取得されました。特に『異文化間の互換関係』の分野においての研究においては、理論に偏ることなく、実際にオーストラリアに住み実践的研究に力を入れたことでも知られています。

 

保苅 実氏が残したのは、研究成果だけではありませんでした。亡くなる直前まで送り続けたメッセージからは、闘病中の厳しい状況において、常に前向きに生きようとする姿が伝わってきました。「どんな厳しい状況も自分を強くする」というメッセージが含まれていました。さらに私の心に深く焼きついたのは、サイトのタイトルにもなっている'Being Connected with HOKARI MINORU' です。

 

私は実氏のメッセージから大切なことを学びました。彼のメッセージは、多くの闘病中の人を代弁しているように感じました。闘病中、治療上の理由から、友人や知人との面会を断らなければならない時がある。体力的な理由から、電話に出ることや、メールへの返信ができないこともある。しかし、これは、周囲との断絶を希望しているからではない。心は常に、大切な人たちと繋がっていたい。このように、私は彼からのメッセージを解釈しました。できれば、私の解釈ではなく、直接サイトを訪問し、彼の生のメッセージを読んで頂きたいと思います。

 

私は、これまで、一方的に愛すること、一方的に思うこと、一方的に祈ることの意義をあまり感じていなかったかもしれません。しかし実氏のメッセージから、仮にその時々では一方的な行為のように見えたとしても、これらの行為が、周囲との接触が許されない人たちの心の支えになっていることを知りました。

 

また、実氏にお姉様の由紀さんがいらしたように、他の闘病中の方の周りにもきっと「メッセンジャー」となってくれる人がいるはずです。直接メッセージを伝えることができない時は「あなたをいつも大切に思っているよ」「いつもあなたの話題で笑っているよ」「いつもあなたの笑顔の写真を見ているよ」「いつもあなたの文章を読んで勇気をもらっているよ」といった思いを、メッセンジャーを通して伝えてみて下さい。

 

最後にもう一つ。実氏は32才という若さで亡くなりましたが、彼の研究には終止符が打たれたとお思いですか?いいえ違います。オーストラリア国立大学社会科学研究所オーストラリア先住民史センターの同僚と友人が『オーストラリア国立大学・保苅 記念奨学基金』を立ち上げました。ここに集まる寄付金は、永遠に、オーストラリア先住民史研究に関連したフィールドワーク調査及び研究に携わる大学院生の支援に使われています。

 

多くの若者に伝えたいことがあります。明確なビジョンを持って生き抜く人には生物学的な終わりはあっても、その人の「志」の先に、終わりがないことを。

野村るり子


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